〜ファンタジー小説30のお題〜

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『5:迷いの森(後編)』

 パチパチパチパチ……。焚き火からは、木の爆ぜる音が聞こえる。辺りはもう闇に包まれている。山の日の入りは早い。
「はふはふはふ。おいし〜♪」
 セリナが幸せ一杯の顔で、焼きトウモロコシを頬張っている。ブライトは馬乳酒を飲んでいる。現在、俺達は夕飯の最中だ。念のため一週間分の非常食を携帯しているが、明日以降の探索(目的物と帰路)は午前中に限定し、午後からは水と食料の確保を考えた方がいいかもしれないな。
 今俺達が来ているのは、ドラーダの森だ。

『フィルロエスを持ち帰ること』
 それが今回受けた依頼だった。……というか、値段に目がくらんで奪い取った仕事だ。しかし。
「フィルロエスって何だ?」
 聞いたことも無い名前である。間接依頼だったため、依頼者自身の情報も不明確。酒場やギルド、町でも聞き込みをしたが、いまいち判らない。
「川辺に生えるユリ科の植物」
 と言う者もあれば
「森に住むネズミに似た齧歯類(げっしるい)」
 そう説明するもの者もいた。誰も実物を見たこともないのだ。しかしなぜか、皆口を揃えて
「ドラーダの森にある」
 と言う。図書館で調べたが、やはり判らない。街の情報屋を訪ねたが、不在。数日待ったが帰ってくる気配もなかった。後、情報があるとすれば王立図書館だが、一般人に閲覧する権利はない。
 この仕事は、元々の金額も高いが、行方不明者が続出したため更に値がつり上がったそうだ。情報の無いまま仕事を請け負うのは危険だ。でも断念するには、あまりに惜しい額だった。
 迷っていた俺が引き受ける決め手となったのが、セリナとブライトの反応。相棒たちの同意を求め、二人に詳細を話した。するとセリナは目をキラキラ輝かせ
「フィルロエスって実在するんですね〜!」
 と言ったのだ。
「セリナ、知っているのか?」
 意外な情報源に驚いて尋ねると
「小さい頃に読んだ童話にでてきたんですよぉ。良い子のクウに、神様がフィルロエスを贈ったの。それでクウのお母さんは不治の病から救われるんです〜♪」
 なるほど、童話か。童話には、作られた当時の時代背景や真実を含んでいる場合もある。フィルロエスは希少な薬草かもしれないな。ふとブライトを見ると、目が笑っている。
「ブライト、何か知っているな?」
「さあ? 我は何も言っておらぬが?」
 何といっても総合生存年数が不明なブライトだ。知らないはずがない! ……多分。
 これは何とかなりそうだぞ。
「ドラーダの森には “まやかし” が住み着いている」
 続いて森について調査した時に、複数の街の人が口にした言葉だ。行方不明者が続出したため不安になった人々から流れたのだろう。18年間の人生で、ブライトだけが理解を超えた存在だった。そうそう居るとは思えない。熊や狼などの危険動物か、風に揺れる草木を見間違えた可能性もある。
 ドラーダの森が、溶岩地帯――落ち葉に隠された空洞などに嵌(はま)って落ちる危険のある地帯――ではないことも確認済みだ。そして天気が短時間に変化する森でもない。何より俺は、切り株を見て、年輪の厚さの違いからも方角が読める。旅慣れない街の住人とは違い、簡単には迷ったりしないのだ。そして……。

 ――そして、見事に森で迷い、現在に至っている。

<『5:迷いの森』 完>


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