〜ファンタジー小説30のお題〜
枯れ木を組み、火付け石を手にしている俺。
前には、胡坐を汲んで座る人型のブライト。そして、その膝の上で、うつらうつら舟を漕いでいるセリナ。
二対一で向かい合っているこの体勢は、どうも落ち着かない……。
数時間前のセリナは、一緒に落ち葉集めや枯れ木拾いに勤しんでいた。相当疲れたらしく、最初は、俺の体を暖房代わりに休もうと格闘していた。まだ仕事が残っていた俺が邪険に扱うと、セリナは次の狙いをブライトに定めたのだ。そして今の状況に繋がっている。
季節はもう初夏。しかし、木で日が遮られている森の中は涼しく、夜になると冷え込んでくる。
セリナにせがまれ、ブライトは頻繁に人型をとるようになった。そして、俺の良い話し相手になってくれている。尊大そうに見えて、実はかなり気さくなのだ。話し相手が居るのはありがたい。やはり旅は道連れだよなぁ。
「この豊かな森に居ると、ブライト、お前と出合った場所を思い出すよ」
カチッカチッ。二つの石を打ち合わせながら、俺は懐かしい森と湖の街に思いを馳せていた。
「お前、俺と一緒に来て大丈夫だった訳?」
「契約で定められた生贄は、土に返った。我の元には届かず、契約は無効となったのだ。従って、今、我はここにいる」
「契約?」
「水に恵まれた街は、水害の発生率も高い。人々は治水の為に祈りを捧げ、我を呼び出した。生贄は、我が力を発揮する為に必要不可欠であったが、同時に、あの場に我を縛り付ける枷ともなっていたのだ」
えっと、よくは分からないが、要するに、現地の人たちが、治水の神様として呼び出したブライトを、俺が勝手に解放してしまった、ということか? 不味かったのでは……。
「おぬしが "ブライト" と呼んでいる馬の体も、我に生贄として供されたもの」
「ふ〜ん? ところで、何で、お前は自在に変化できるんだ?」
「実体ではなく思念体だからだ」
「思念体?」
「本体は別の所にある」
う〜ん……。ブライトの言葉。いまいち、分かったような、分からないような……。
その時、セリナが身じろぎした。と思ったらベタベタベタベタとブライトの体を触り始めた。
「ブ〜ちゃん、本物じゃないの? 手触り、こぉんなに暖かいのに〜」
嫌な顔一つせずセリナの行動を許しているブライトは、相当心が広い。しかしセリナ、いつの間に目を覚ましたんだ?
「アベルおぬし、何故我がセリナに優しくするか解らぬ、という顔をしておるな?」
俺の表情を読んだらしい。
「おぬしは以前から、観察力に欠けるきらいがある、とは思っておったが」
ブライトは何とも言えない表情で、こちらを見なたら言った。
「我らとこの子では基礎体力が違うのだ。セリナは常に笑顔を絶やさぬし愚痴も言わぬ。しかし足手まといにならぬよう、この子が、どれだけ無理をしてついて来ているか、おぬし、少しは理解しておるのか?」
何も言い返せない俺に、グサリと、とどめの一言。
「だから、おぬしは、もてぬのだ」
ところで。
なぜ俺達が和やか(?)に、焚き火(になる予定の枯れ木)を囲んで休んでいるか、というと。
まぁ、要するに。
迷って、森から出られなくなってしまったのだ。