〜ファンタジー小説30のお題〜

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『7:忘れられた呪文(おまけ)』

<セリナ視点>

翌朝。
「う〜ん、気持ちいい朝っ!」
 チュンチュン小鳥の囀(さえず)りも聞こえて、すっごく爽やかな朝だよ。思いっきり伸び♪
「ぷはぁああああ」
 あたしは携帯してきた水をゴクゴク飲んで口を拭った後、出てきたばかりのテントの中へ、首を突っ込んでそ〜っと覗いたの。
「アベルさん爆睡しちゃって、全然起きないですね〜」
 アベルさんって、思っていることが、ぜーんぶ顔と行動に出ちゃう。見ているとクルクル表情も変わるし、オーバーリアクションだし、演劇を見てるみたいで、めちゃくちゃ面白いんだよ〜。
「ぷぷっ」
 かぱ〜って口を開けて寝ている表情も、面白過ぎだよぉ。起きる気配も無いし。
「よ〜し」
 こっそり近付いて行って、隠し持っていたお化粧道具で、アベルさんのお顔に落書きしちゃった♪
「セリナ、目が覚めたのか?」
 その時、颯爽とブ〜ちゃんが登場。周りにキラキラと零れる白い光の粒が見える。ブ〜ちゃんって、本当にかっこいーのっ! 物語の中に出てくる王子さまだって、こんなかっこいー人いなかったもん。
 頭部を覆う髪は漆黒なのに、光の加減で金色に輝くんだよ。不思議でしょ? お馬さんの時は黒曜石色なのに、人の時はサファイアみたいに深い青の瞳。見ていると吸い込まれそーなの。綺麗な目鼻立ちに、シミ・シワはもちろん無くて、ピッカピカのお肌。アベルさんが手入れ不足で、ちょっとガサガサしてるから、並ぶと違いは歴然。
 しかも、ブ〜ちゃんはいっつも優しい。一緒にいるだけで幸せ♪
 もちろんアベルさんも、面白くて大好き。一緒にいられて幸せだよ♪

 ブ〜ちゃんは、手にしていた大きな平たい石を、私の手にのせた。ズシリと重い。何か彫ってある。
「ブ〜ちゃん、これなぁに?」
「それはフィルロエスという石版だ。現代では、既に忘れられた呪文が、古代文字で刻みこまれておる」
 あたしは、目を丸くして、マジマジと石を見たの。これがフィルロエス? この記号みたいなのが文字? ふえ〜! 
「我がまだ若かりし頃、一人の若者に呪文を授けたことがあるのだ。若者はその呪文で病の者を救った。母親も。彼は後世に残すために、呪文を石版に刻んだのだ」
「へぇええ。クウは皆も助けたんですねー、偉いぞぉ。そして童話の神様って、ブ〜ちゃんのことだったんですね〜♪」
「しかし。噂を聞いた者たちが、石版を巡って醜く争った。見かねた我は、石版を森に封印し、守護者をつけたのだ」
「なぁるほど」
 じゃあ、ブ〜ちゃんが守護者さんに頼んで、石版を返してもらったんだね。
「今日は迷うことなく森から出られるであろう」
 さすがブ〜ちゃん。アベルさんも、ブ〜ちゃんみたいな素敵な仲間がいて、幸せだね♪
 その時、ポテッと音がして、何かが石版から落ちたの。あれ? 丸々太った野ネズミだよ。でも色は真っ白。なんで気付かなかったのかな? 石の窪みにでも嵌っていたのかな? とても隙間に入れたと思えないくらいオデブさんなんだけどなぁ。
 野ネズミは、ヨタヨタと森の奥に去って行っちゃった。
 グルルルル……。
 あうー。お腹すいたよー。
 よぉし、焼きトウモロコシを作るぞ。おー!
 あたしは、石版をブ〜ちゃんに返すと、枯れ木集めを始めるため、木漏れ日の綺麗な森の中へ飛び出して行ったの。


 あ! あのね、結局、森の中で水辺を見つけられなかったの。
「節水する」
 そー言って顔を洗わずに街に帰ったアベルさんは、皆の爆笑をとってた。
 やっぱり、アベルさん、めちゃくちゃ面白い人だね〜♪

<『7:忘れられた呪文』 完>


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