エピローグ〜そして兄弟は再会した〜(セイルの章)

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《E−2》

 その時、ガチャ、と扉が開き、ヨハネとマルクが入ってきた。その横には。
「マルセイユ!?」
 俺はベッドから上半身を起こし、すぐに痛みで布団に沈没した。
「……生きていたんだ……」
 死んだ、と聞いた時は、乾ききっていたのに。生きていたと知り、俺の目は熱くなり、涙がこぼれた。
「『消えた方がいい』と言いましたが、『殺した』とは一言も言ってないです」
 シラッとした顔で、チョークは嘯いた。
「僕、死んだふりが、ばれるんじゃないかって、緊張で、ガチガチだった、なのに、セイルが手を掴むから、心臓の音が、聞こえたらどうしよーって、どきどきしたよ」
 ……緊張して固くなっていたのを、死後硬直と、俺は、勘違いしたのか? そんな……。
 役者になれるよ、マルセイユ……。
 涙を流す俺に、ばつの悪そうな表情をすると、マルセイユは、持参してきた皆の名前とお金の入った封筒を、そっと俺の枕元に置いた。

 その時、再び扉が開き、豪奢な金髪の大柄な男が現れた。
「第一王子さま」
 素早くチョークは跪いて頭を垂れ、マルセイユとマルクは這いつくばった。
「ディー、体調はどうかな?」
 例の、低くて、ちょっと冷たい感じの、落ち着いた柔らかい声。
 さすが、マリア姫様の兄上様。
 スラリの美しい姿形に、姫に良く似た美しい顔、豪奢な金の髪、美しい紫紺の瞳は、まさに光の大天使様というに相応しい。見つめ過ぎると、罰があたって目が潰れそうだ。
 でも傍にいると、なぜかホッとする人だ。
 しかし、第一王子、御自ら、保管庫に潜み、アジトに先頭きって乗り込んできた。
 そんな王子がどこにいる。
 ……さすがチョークの上司だ。
 そして、俺を"ディー(ディライト)"と呼び、自分の弟だと言う。
 物心ついてから、俺はずっと"セイル"だった。ディライトと呼ばれ、兄弟といわれても、困惑するばかりだった。信じられない。ありがたいような、怖いような……。

 第一王子が歩み寄って来ようとすると、ヨハネが、俺を庇うように、前に立ちふさがった。
「君は、兄弟の語り合いを邪魔する気かい?」
 目をすっと細めた第一王子に、ヨハネは無謀にも挑戦的な口調で言った。
「リーダー、いえ、セイル、様は、まだ傷は居えていません。王子様がいらっしゃると、気を使って休めません」
 すると、第一王子はクスリと笑った。
「君は、ディーを守る騎士だな」
 そう言うと、クルリと踵を返し、扉に向かった。
「身を挺して弟の命を守ってくれた騎士に、この場は譲っておくよ」
 そして、手にしていた花束をチョークに渡すと、俺が話しかける間もなく、そのまま部屋から出て行ってしまった。


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