エピローグ〜そして兄弟は再会した〜(セイルの章)

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《E−3》

 はぁあああああ、と俺は息をついた。
「ヨハネ、不敬罪に問われていたら、どうするつもりだったんだよ」
 しかし、ヨハネは、不機嫌な顔でこちらを見た。
「自分の国の王太子に対して、こんなこと、言いたくはないけど」
 チラリとチョークを見て少し躊躇った後、話を続けた。
「あの人は、サディストだ」
「サディスト?」
「リーダー、考えても見ろよ。チョークから情報を得ていただろうし、あの人は俺達より今回の事件に詳しかったはずだ。保管庫でリーダーを問いただす必要も、ましてや切り付ける必要もなかった。姫様の部屋にそのまま連行すれば済んだはずだ」
「あ……。言われてみれば」
「何より、逃げた犯罪組織を捕まえるために俺達を利用したんだよ? 結果、リーダーは大怪我を負ったんだ。兄弟でも、10年も会わなければ他人と同じだよ。リーダー、例え王子でも、お兄さんでも、あの人を信用するのは危険だよ。だいたい、顔しか取りえのないリーダーの、顔を傷つけるなんて信じられない」
「顔しかって。何か、嬉しくないぞ」
 チョークは面白そうに、俺達を見ている。

 その時、再度扉を叩く音がした。
 そして部屋に入ってきたのは。
「マリア姫!」
 仲間たちは素早く反応し、跪いたり、這いつくばったりしている。その姿を横目に、俺はチョークから花束を奪い取り、サッと姫様に差し出した。腿の痛みは我慢だ。
「いつも綺麗な僕の妖精。君を飾ることのできる、この花に、俺は嫉妬してしまいそうだよ」
「大怪我をしても、緩んだ頭のネジは締まらなかったみたいね」
 マリア姫は、ニッコリと笑いかけてきた。
「私は貴方の姉です。花束はいりません」
「姉だなんて、冗談じゃない。結婚ができない! だから貴方と私は他人です」
「…………。その容姿。そして貴方の左腕の火傷跡。それが何よりの証拠なのです」
「左腕?」
 俺の左腕には、物心付いた時から、引きつった判子のような火傷の跡がある。
「ディライト第二王子は4歳の時、左腕に火傷を負い行方不明となりました。私たちは、10年に渡り探し続けてきたのです。そして、ようやく貴方を見つけました。ディライトは、"喜び""喜ばす"の意味を持つ、素晴らしい名前よ?」
 マリア姫は、そっと俺の手をとり、優しく微笑んだ。
「お帰りなさい。私の可愛い弟、ディライト」
「弟は、嫌だーーーーーーーー!」
 俺の悲しい叫び声が病室に響き渡った。
 その時、ヨハネが後ろでボソリと言った
「もともと、身分違いで、結婚はありえなかったと思うけど」
 という言葉は、聞き流して。

 こうして、姫様に対する、おれの淡い恋の話は、終わりを告げた。……かもしれない。

 余談だが、鎖を買い取ってくれた紳士は、リア国の国王様、ご本人だった、らしい。
 姫君から話を聞き、宝石店で、俺の為に待機してくれていたのだ。
 部下も付けずに、街を歩き回る国王がどこにいるんだー!
 さすが、あの親(国王)にして、あの子(第一王子)あり、だ。

 仲間たちが、同じように、あの親(国王)にして、この子(セイル)ありだな、なんて考えていたことは、思いもよらない俺だった。


(第一話、終了)


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