5章〜依頼者との駆引き〜(セイルの章)

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《5−4》

 ダンの連れて行ったアジトには、20人前後の人間が出入りしていた。
「動脈にはあたっていないが、静脈は傷ついている。人間は血液の1/5を失うと命に関わるんだ。ダン、子供になにしてんだ。応急手当が良くて大事には至っていないが、危なかったぞ」
 ダンの仲間の自称医療関係者は、ナイフを火に炙りながら続けた。
「鉛弾は貫通していても破片が体内に残っていることがある。取り除かないとそこから組織が腐る。まぁ、口にしなければ中毒の心配は無いが」
 そして見覚えのある、白い粉が用意されているのが目に入った。
「坊主。お前たちが持ってくる予定だったゴアだ。局所麻酔で使い、患部をナイフで切る。麻酔が不十分で痛みを感じるかもしれない。舌を噛まないように、布でも口につっこんでおけ」

 局所麻酔が強く効いたのか、俺は、意識を失い、切ったり縫ったりした記憶は無い。
 しかし、目が覚めた後、発熱で朦朧としながら、燃えるような足の痛みにのた打ち回った。痛み止めとしてゴアを出されたが、俺は口にするのを拒み、ヨハネの用意したコウの木の葉のお茶だけを、何とか口にした。

 遠い、かすかな記憶。
 熱に浮かされた俺の手を握る、暖かな手。
 優しい声と、金の髪。
『ディー、遅くなってすまない』
 そう、そんな感じの名前で俺を呼んで……。

 ドタドタと、沢山の人の足の乱れた音。
 人の叫び声、怒号。
 うっすら目を開けると、俺は、光を反射して輝いている、豪奢な金の髪のでかい人間に抱き抱えられていた。
「全員、捕獲。任務完了しました」
 遠くから聞こえる声に、頭上の人物が答えた。
「よし。連行せよ」
 低くて冷やかな、でも、随分と落ち着いた柔らかい若い男の声。
 そうだ、この声は……。
 保管庫で聞いた…………。

 そして、そのまま意識は遠のいて………………。

 次に意識が戻ったのは、柔らかいシーツと布団の上だった。


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