5章〜依頼者との駆引き〜(セイルの章)
ダンの連れて行ったアジトには、20人前後の人間が出入りしていた。
「動脈にはあたっていないが、静脈は傷ついている。人間は血液の1/5を失うと命に関わるんだ。ダン、子供になにしてんだ。応急手当が良くて大事には至っていないが、危なかったぞ」
ダンの仲間の自称医療関係者は、ナイフを火に炙りながら続けた。
「鉛弾は貫通していても破片が体内に残っていることがある。取り除かないとそこから組織が腐る。まぁ、口にしなければ中毒の心配は無いが」
そして見覚えのある、白い粉が用意されているのが目に入った。
「坊主。お前たちが持ってくる予定だったゴアだ。局所麻酔で使い、患部をナイフで切る。麻酔が不十分で痛みを感じるかもしれない。舌を噛まないように、布でも口につっこんでおけ」
局所麻酔が強く効いたのか、俺は、意識を失い、切ったり縫ったりした記憶は無い。
しかし、目が覚めた後、発熱で朦朧としながら、燃えるような足の痛みにのた打ち回った。痛み止めとしてゴアを出されたが、俺は口にするのを拒み、ヨハネの用意したコウの木の葉のお茶だけを、何とか口にした。
遠い、かすかな記憶。
熱に浮かされた俺の手を握る、暖かな手。
優しい声と、金の髪。
『ディー、遅くなってすまない』
そう、そんな感じの名前で俺を呼んで……。
ドタドタと、沢山の人の足の乱れた音。
人の叫び声、怒号。
うっすら目を開けると、俺は、光を反射して輝いている、豪奢な金の髪のでかい人間に抱き抱えられていた。
「全員、捕獲。任務完了しました」
遠くから聞こえる声に、頭上の人物が答えた。
「よし。連行せよ」
低くて冷やかな、でも、随分と落ち着いた柔らかい若い男の声。
そうだ、この声は……。
保管庫で聞いた…………。
そして、そのまま意識は遠のいて………………。
次に意識が戻ったのは、柔らかいシーツと布団の上だった。