5章〜依頼者との駆引き〜(セイルの章)

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《5−3》

「違う! 2人、揃って生きて戻れるのでなければ、隠し場所は教えられない!」
 そう言うとヨハネは、拳銃が目に入っていないかのように、俺の傍に来て止血の応急処置をはじめた。俺の足の付け根を押さえて動脈の流れをとめ、粉を包んできた布を手早く包帯上にして止める。出血量が多いのか、ショックからか、俺の頭は霞んでいる。俺のことはいい、自分の腕の傷を気にしろよ、そう言いたいのに声にならない。
 しかしすぐ、ヨハネを押しのけて近づいたダンに、髪をわし掴みにして引っ張られて顔を持ち上げられた。頭部の痛みで、俺の少し意識ははっきりした。
 ダンは、俺の顔を覗きこんだ。
「毛色の変わったお兄さん。身なりの悪さで、気にも留めてなかったが。かなりの上玉だな。あんたがいればゴアの損失分の元は取れそうだ。まぁ、最悪でも、北の大陸に連れて行けば、臓器売買できるしねぇ」
 俺は顔めがけて、唾を吐いてやった。やられっぱなしでたまるか。
 ダンは顔を背けなかった。黙ったまま、左手で自分の顔をぬぐった後、その左の手をペロリと舐めたのだ。おいおいおいおい。
 こいつの反応、変だぞ。俺は背筋がぞわぞわした。
 ダンは顔を更に俺に近づけてきた。
 自分のかけた唾が、顔につきそうで嫌だ。しかも唇同士の距離が近すぎる! げげげ。まだ近づいてくる?!
 ひぃいいいいいい!
 い〜や〜だ〜ぁああ
 助けてくれぇええええ!!!
「変体野党!」
 そう叫んで、身を挺し、ダンに体をぶつけてくれたヨハネに救い出され、危機一髪難を逃れた。
 何が悲しくて、オジサンと接吻せにゃならんのだ。

「ダンさん、セイルの手当てをした方がいいです。もう一人、チビが情報を知っています。今、死なれてはまずいです。闇医者、もしくは、仲間内に医療の心得のある人はいませんか?」
 引きつった表情で、チョークが言った。こいつもダンの行動に、かなり引いたようだ。
 ダンは少し考える様子を見せ、頷いた。
「そうだな。仲間に診させよう。傷が残り、商品価値が下がっても困る」
 そして俺達は、納屋の裏から、彼らのアジトに連行された。


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