5章〜依頼者との駆引き〜(セイルの章)

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《5−2》

「チョーク、やはりお前はスパイだったのか」
 ヨハネの言葉に、俺は驚いた。
「ヨハネ、お前チョークが怪しいと気付いていたのか?」
「はっきりと確信したのは、昨日。薬草と聞いていたのに、粉を見てゴアと言い切り、一部だけ、とも言ったんだ。以前見たことがある証拠さ」
 チョークは顔を歪めて笑った。
「さすがヨハネだな。人の話をよく聞いている」
「マルセイユを撃ったのは、チョーク、お前じゃないのか?」
 ヨハネの言葉にダンは物言いたげな顔をし、チョークは更に顔を歪めた。
「あいつは、隠密行動中の、しかも、内密の出入り口である納屋の前で、焚き火をしていた。そんな目立つ行動をする馬鹿がどこにいる?! 足を引っ張る邪魔者は、早めに消えた方がいい」
 俺は悲しくなって言った。
「マルセイユは、馬鹿なんかじゃない。軽率な行動に映ったかもしれない。でも、あいつは単に、少し怖がりで寂しがりなだけだ」
 俺は、チョークを見た。
「なあ、チョーク。俺達はずっと仲間だったじゃないか。どうして裏切る? どうして友達を悪く言えるんだよ?」
「……ともかく、ゴアは手に入った。情報を知った奴は、消すだけだ」
「それはどうかな?」
 チョークの言葉に、ヨハネがニヤリと笑った。
「俺達が、素直に本物のゴアを持ってきたと思うか?」
「……どういうことだ」
「俺達を殺せば、ゴアの隠し場所は、永遠にわからないままってことさ」
 チョークはヨハネを睨みつけた。
「それなら、城にある残りを取りに行くまでだ。使える駒は、お前たちだけじゃない」
「笛の音はお前も聞いただろう? あれだけの騒ぎの後だ。保管場所は移動し、管理は厳重になっているはずだ。城から残りを手に入れるのは困難さ。失敗続きでは、あんた達の立場も危ういだろ? 俺達の所持分だけでも手に入れた方がいいんじゃないか?」
 その時、反対側から拳銃の音がした。俺の右の腿に焼け付くような痛みが走る。
「うあっ」
「リーダー!」
 顔色を変えたヨハネに、ダンは表情も変えずに告げる。
「隠し場所を知っているお前さえ生かしておけば、他の人間は殺しても問題も無い、ということだな」


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