4章〜無知の代償〜(セイルの章)

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《4−3》

 マルセイユは、俺と同じで産みの親がわからない。育ての親に育てられたのだ。
 マルセイユの家に行くと、赤い目をしたおばさんが出てきて、俺達を中に入れてくれた。マルセイユはベッドに横たえられていた。その顔には、涙の跡が見えた。頭の傷以外は、手も足も体も、全て綺麗で、そのままで、まるで眠っているみたいだった。もう息をしてないなんて信じられない。
 俺は、マルセイユの手を取ろうとした。が、死後硬直が始まっているからか、動かせなかった。再度頭の中が真っ白になる。
「ごめん、マルセイユ。 ……巻き込んで、ごめん」
 おばさんも、マルクも泣いている。ヨハネも、チョークも目が赤い。
 俺は、冷血漢なんだろうか。全然、涙が出てこない。
 ガサリ、とポケットから音がした。そうだ、お金を持ってきたんだ。
 俺は、マルセイユの封筒を取り出すと、彼の枕元に置いた。
「うちの子を返して」
 おばさんがポツリと言った。
 俺は、なにも言えず、うつむき、結局、その場を後にした。

 マルセイユの家から出ると、後からヨハネ、マルク、チョークが続いた。
「……これ、今回の労働費だから」
 俺が、封筒を渡すと、ヨハネが俺に返してきた。
「これは、マルセイユの家族に渡してくれ。葬式代に使ってもらおう」
 マルクも同意して頷き、チョークも少し考えた後、お金を返してきた。
「……わかった。でも、俺は、マルセイユの家に入れない。申し訳ないが代わりに届けてきて欲しい」
 そういってヨハネに渡すと、彼は黙って受け取り、マルセイユの家に入っていった。

「俺は、隣村に行ってダンに会ってくるよ。そして今回請け負った仕事について、もう一度詳しく聞いてくる。マルセイユに何があったかのヒントも得られるかもしれないし」
 ヨハネが戻ってくると、俺は皆にそう告げた。
「師匠、一人で行くのは危険だよ」
 マルクは慌てて俺を引き止めた。
「マルクと同意見だ。4人で連れ立って行動した方がいい」
 ヨハネが言えば、チョークも
「一部とはえ、こちらにはゴアがある。相手から情報を引き出すのに役に立つんじゃないか」
 と言ってきた。
 するとヨハネは何かを考える仕草をし、俺に言った。
「リーダー。ゴアが保管庫に、どれ位の量あったか覚えているか?」
「ああ、だいたい、なら」
 そういえば、ダンから、運び出す量の指示はなかった。当然全部持ち出すと思っていたのか。それとも"在ること"を確認できれば良かったのか。
「……リーダー。隣村に行くのは、明日の朝にしないか? 元々明日行く予定だったんだろ? 明るい時間帯の移動の方が、安全だし」
 通常よりも、幾分ゆっくりとヨハネは話した。俺はニッと笑って、頷いた。
「わかった」
 こういう話し方をする時は、ヨハネは何か考えがあるんだ。
 俺達は、明日の朝、日の出の時間に村中央の公園前に集合することを約束し、解散した。


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