4章〜無知の代償〜(セイルの章)

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《4−1》

 あの、蜜色の髪の男は、何者だったんだろう。
 剣で斬りつけられるなんて生まれて初めての経験で、大変な怪我をしたつもりだったけど、目覚めた時に血は止まっていたし、薄皮一枚切れた程度の怪我だった。最初から殺す気はなかったのだろう。まだ痛みは残るが、邪魔なので包帯は外した。
 そして何より。
 姫様の元に、俺を連れて行ったのが彼なら、身分の高い人物。
 そして、姫様と相当親しい人物である、ということだ。恋のライバルだ。
 顔は見えなかったが、細身の長身で、凄くもてそうだ。
 しかし、どういう考えがあって、彼女の元に俺を連れて行ったのだろう。

 ああ、マリア姫。
 高貴な方なのに、あんなにも気さくで、身近な感じの方だったなんて。
 うっとり。

 街中を歩きながら、俺は考え続けた。
 今、俺は、貴金属商に向かっている。
 貰ったネックレスは、お姫様と俺をつなぐ、大切な品物だ。売りたくはない。
 でも、マルクのお姉さんに粉ミルクを買ってあげたいし、今回手伝ってくれた仲間たちに、少しでもお金を渡したい。
 迷った末、紫の宝石は保管しておき、鎖だけ売ることにした。
 一張羅を身につけてきたが、祝いムードの下級生に水風船を投げつけられ、全身びしょ濡れ。店に入れない。……どうしよう。そもそも、14歳のガキの持ち物を、宝石商が引き取ってくれるのだろうか。
 店の前でウロウロしていると、良い身なりをした紳士が現れた。綺麗な赤い瞳をした人だ。彼はフッと、俺の握り締めている鎖に目を留めた。
「プラチナチェーンだね。いい品だ。君は、これを売ろうと思っていたのかい?」
 ニコニコと穏やかに笑う紳士に、俺は黙って頷いた。
「宝石に見合う鎖を探していたのだが、良い品が見つからなくて困っていたところだ。私に、これを売ってくれる気はないかな。そうだね、200リアンでどうかい?」
「200リアン?!」
 俺は、飛び上がった。国の平均月収の2倍、俺の月収の10倍だ。いい物でも、中古だから10リアン位だと思っていた。
「少ないかな?」
 老紳士の言葉に、
「全然、ちっとも、少なくないです!」
 俺は、100リアン札を2枚受け取り、紳士にチェーンを渡した。
「本物の札か、確認をしなくても大丈夫かい」
 ポケットにお札を突っ込もうとすると、紳士は面白そうにそう言った。そう言われても、普段こんな高価なお札を持ちなれていないし、本物も偽者も見分けられない。
「大丈夫です。貴方は人を騙す人には見えないから」
 俺は、そう返事をした。すると紳士は、俺の髪をクシャクシャと撫でた後、立ち去って行った。

 凄い、凄い、凄い、凄い。今俺は、14年間の人生で一番の金持ちだ。
 俺は、5リアンの粉ミルクを2つ買い、その他、栄養のつきそうな食べ物を町で買い揃えた。
 その後、一度家に帰って、ヨハネ、マルク、チョーク、マルセイユの名前を書いた手製の封筒に各々40リアンずつ入れてポケットに入れ、買った品を持って家を出て、マルクの家に向かった。


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