3章〜…天国…?〜(セイルの章)

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《3−1》

『生きていて、くれたんだね』
 頬を撫でる、大きな暖かい手。
『よかった』
 慈しむ様な、優しい、ホッとする声。
 額に、何か柔らかいものが触れた。
 この声は――。

 パチッと目を開けると、鮮やかな赤い髪が目に飛び込んできた。
 目の前には、すごく綺麗で可愛い女の子の顔。
「目が覚めました?」
 女の子は、にっこり、微笑んだ。
 鈴の音のような、綺麗な声。
 ほんのり赤い唇。
 髪には沢山の花飾り。そしてレースを組み合わせたような、淡いピンクのドレス。
 瞳の色と合わせて紫色の宝石が首を飾り、ネックレスの中央で輝いている。
 柑橘系の爽やかな香りがする。

 柔らかくて肌触りのよい新しくて清潔感溢れるシーツ。
 俺の藁のベッドとは違う、体形に合わせて沈み込むベッドの感覚。
 天井には、ガラスや飾りが沢山ついて四方に光を放っている巨大な電灯。
 シャンデリア、だろうか?
 綺麗な模様の入った白い壁には、大きな風景画が飾られている。

 見たこともない綺麗な女の子に、綺麗な部屋。ここは天国?
 もしかして、俺は殺されたんだろうか?
「あなたは、俺の天使?」
 女の子の手に自分の手を添えて、そっとキスをしようと口を近づけたら、女の子に左の頬を抓りあげられた。
「いてててて」
「さっさと目を覚ましなさい!」

 顔の違和感で、ようやく右の頬を覆うガーゼに気付いた。
 掛け布の下の俺は、スッポンポンの裸で、左腕と背中から胸にかけて包帯がまかれていた。
「くすっ。俺の体が見たかった?♪」
「いい加減にしろよ、このエロガキ」
 うっとりと彼女を見上げると、ボカリ、と頭を殴られた。
 怒りで、ほんのり頬を赤くした顔も可愛い。天使というより、炎の妖精、かな。
 ふぅ、と息をつくと、炎の妖精は口調を改めて話出した。
「正気に戻りましたか? 体は拭きましたが、まだ汚れています。風呂の用意はできていますので、体を洗い流してきてください」
 そうして、意外に力持ちな炎の妖精に、俺は風呂に押し込まれたのだった。
「貴方の服は、汚いので捨てました」
 とんでもない一言と共に。


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