2章〜城壁内侵入!〜(セイルの章)

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《2−4》

 俺は固まった。眼球だけ動かすと、切っ先が目に入った。刃物、だ。……剣、だよな。背筋に冷や汗が流れる。
 足音も、衣擦れの音も、人の気配はまったくしなかったのに。
 声がしたのは、背後のやや上方。低くて冷やかな、でも、随分と落ち着いた柔らかい若い男の声。ま、まさか……。最初から、俺が来ることを知っていて、待機していた?
「ゴアの名をどこで知った? 盗み出すよう、お前に指示した人間は誰だ?」
 俺は緊張で固唾を呑んだ。落ち着け、落ち着くんだ。
「詳しくは、知らない。入手困難な、希少品だから、と、頼まれて」
「質問に答えろ」
 頬に刃が食い込む。
 ……顔に傷が残ったら、女の子たちは怖がって逃げていくかな。ワイルドな魅力が加わって、逆にモテるのだろうか。不味い、現実逃避で思考がずれている。打開策を、考えないと。
 俺は、手にしていた蝋燭を後ろの男に向けて投げつけた。蜜色に輝く男の髪が目に入った。驚いた男が怯んだ。その隙に、ゴアの袋を掴んで走り出す。
 蝋燭の火はすぐに消えて、保管庫内は暗闇に戻る。でも、俺の目は、窓と15cm大の小さな瓶を捉えていた。瓶を掴むと、中身を下に空けて中にゴアの袋を突っ込み、窓ガラスめがけて思い切り投げた。
 ガシャーン!
 窓が砕け散る音を聞きながら、ポケットから取り出した笛を、力いっぱいに吹いた。
 ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 夜を切り裂くように、笛の音が響く。当初の作戦は失敗だ。瓶は上手く外に届いただろうか? 瓶の中のゴアに、ヨハネは気付いてくれただろうか。草でなくて粉だったから、判らないか。音で警備兵があつまって来るから、逃げるので精一杯かな。
 シュッと空気を裂くような気配がして、背中に痛みが走る。斬りつけられた。
 口から笛が転げ落ち、体勢を崩した俺は、棚にぶつかった。
 左腕に痛みが走る。棚から尖った物が飛び出していたようだ。
 そのまま後ろから圧し掛かってきた男に、押さえつけられ、倒される。
 引っかかっていた俺の左腕の袖が、裂けた音がした。
「時間がない。確認は後で、だな」
 男の呟きが聞こえ、口元に何かを押さえつけられた。吸った途端、意識が遠のく。クロロフォルムかな。クロロフォルムは、レモンライムのような香りだと思っていたのに滅茶苦茶気持ち悪い吐きそうな嫌な臭い……。
 ああ、作業着、背中も腕も繕わないと…………。
 蜜色の髪って、この人はアルゼア国から来たのかな………………。
 捕虜になったら、拷問受けるのかな……………………。

 そうして、俺の視界は暗転し、何もわからなくなった。


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