1章〜貧乏庶民の日常〜(セイルの章)

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《1−2》

 普段、俺は、住み込みで働きながら町の学校に通っている。俺だけではない。貧しい子供は皆、労役と引き換えに授業料の免除を受けて、働きながら勉強をしている。ただ、12歳を過ぎると、学校を辞めて完全に家の手伝いでを始める農家の子供が多い。そして大半が10代で結婚する。
 俺は既に14歳だが、金持ちに混じって学校に通い続けている。
 畑で採れる農作物は、非常に安価だ。しかも町では場所代も必要で、支払ったら手元に残るお金は極わずかだ。働いても、働いても、働いても貧乏。だから俺の将来の夢は、勉強して偉くなって、将来は給料を貰える仕事につくこと。とはいっても、完全に農業から離れるわけでない。大学府まで進学して、開発計画や品種改良などを行う農業系の技術者(特に果実系)になるのだ。小作人と違って、最先端の技術を模索する技術者は国からの給料制だ。

 ただ、今は学校が休みで、実家に戻ってきて農業を手伝っている。国を挙げての王女様の成人式祭で、特別休暇になった。というのもあるが、実は1週間前から休暇は続いている。数ヶ月に渡る給料未払いに抗議した先生方がデモ行進を行っているので、学校閉鎖中なのだ。年間授業時間は決まっているから、次の長期休暇開始次期は、春に貰った予定表より1〜2週間ずれ込みそうだ。
 でもまあ、先生方のデモ行進は毎年恒例なので、予定表の方が数週間早めに記載している、という方が正しいのかもしれない。

 そんな実家に帰っている俺たちが、なぜ裏の商売で臨時収入を得ようとしているかというと。母子共にやせ細り、お乳の出ないマルクの姉ちゃんに変わり、赤ちゃん用の粉ミルクを購入するためだ。粉ミルクはとても高価で、貧乏人は手が出ない。生の牛乳やヤギの乳は、比較的安価に入手できるのだが、日照り続きの今は乳の出が悪いようで、しばらく売り子を見ていない。例えわずかに牛乳があったとしても、今は、王女様のお祝いの食事に出されるチーズやヨーグルトやケーキ用の生クリームに優先的にまわされているはずで、入手は困難だ。

 3週間前、隣の村の幼児が亡くなった。非加熱の川の水を直接飲み、下痢したのが原因だったようだ。川の水が少なくなって流れが停滞気味でバクテリアやアメーバーが大量発生しているのかもしれない。
 2週間前に、町から来たボランティアが、水は加熱、又は1日太陽に当てて紫外線で殺菌してから飲むように指導していた。指導内容よりも、そこで支給される金品と交換できる何かを期待して講習へ赴いたが、残念ながら何もでなかった。やはり他力本願は良くないのか。
 そんな時に、「おいしい金儲けの話がある」と、裏の情報を持って、ダンと名乗る隣村の男が俺に接触してきた。
 盗みが悪いことだ、なんて考えなかった。金持ちや王様の所は物が有り余っているんだ。無駄にしているその一部を、食べ物に困っている貧乏人の俺達が恵んでもらって、何が悪い?
 俺はどこか、遊びの延長線上で考えていたのかもしれない。冒険に対する期待、あるいは、村人に献身的行動をとる自分への陶酔。盗難、裏取引に関わることが、どれだけ危険なことかなんて、欠片も理解してなんかいなかった。
 だから仲間を巻き込むくせに、接触してきた男の身元確認もきちんとしていなかった。最近現れたばかりの、隣村の人も見知らぬ人物だったことにすらも気付いていなかった。


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