プロローグ〜こうして物語は始まった〜

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《P−2》

 南東のベイ大陸の中央に、周囲を5つの国に囲まれた、リア国という国がありました。その国には、燃えるような赤髪赤瞳の、炎の化身と称えられる王が治めていました。
 王は、ベイ大陸で一番発展したアゼルア国から、金髪碧眼の美しい后を迎えました。王は彼女をとても気に入り、ほどなくして、金髪で紫の瞳の、愛らしい第一王子が生まれました。
 王后は出生国の大国アルゼア国を誇りに思っており、リア国を見下した気持ちがありました。ことあるごとに比較して田舎の小国と卑しめる王后の言葉を、王は不快に感じていました。そして少しずつ王の心は、王后から遠ざかっていったのです。

 そんな中。王后が第二子(王女)を身篭りました。有名な吟遊詩人かつ踊り子である銀髪美女の旅の一座が、王都に現れたという噂を聞いた王は、つわりで気分の優れない王后を少しでも喜ばせようと、一座を王宮に招待しました。
 国中を旅してまわっている銀髪の吟遊詩人は、自国の素晴らしさを歌にして踊り、観客全てを魅了しました。また世界を回っている彼女は他国の情報にも通じており、その知識は、王を虜にしました。王様に引き止められて滞在を続ける中で、彼女は寵愛を受けて王の子(第二王子)を身篭り、第二の妃として迎えられたのでした。
 怒った王后は、第二の妃を亡き者にするために、暗殺者を送りました。しかし、第二の妃は、警戒心が強く、旅の中で護身の術も身に着けており、ことごとく計画は失敗に終わっていました。
 その年の夏に王女誕生。その半年後の冬に、第二王子は生まれました。体の大小の違いはありますが、赤髪紫瞳の二人は瓜二つで双子の様。親同士の不仲に関わらず、第一王子は妹弟を分け隔てなく心から愛して大切にし、妹弟も兄にとてもよく懐いていました。

 それから4(〜5)年の月日が流れました。
 王后の出生国アルゼア国が、隣のジルラ大国と戦を始めたのです。リア王国は、アルゼア国の同盟国として参戦することになりました。
 しかしリア王国は、超貧乏国。大砲はありますが、砲弾も火薬もなく、威嚇だけで実用性無し。未熟な技術の鍛人によって用意された剣は、斬れない、柄はとれる、衝撃で簡単に折れると使い物にならず、大半の兵が竹槍で戦っています。そして、やせ細った馬は持久力が無く、脚も遅い。最弱国の名は伊達ではない。
 アルゼア国と共に挟み撃ちにするはずが、逆にジルラ国軍に国内に攻込まれ、半年も待たずに降参。ジルラ国と和議を結ぶことになりました。
 当然ながら、アルゼア国と血縁関係のある第一王子を廃し、第二王子を次期王太子とするべきである、という声がリア国内の体勢を占めるようになりました。
 そんな中、乱心した王后が、第二王子を襲う事件が勃発。直後に、第二妃と第二王子は城から姿を消しました。彼らの蒸発に対して王后の関与が疑われました。が、兵の前で第二王妃が王子を胸に抱いてセイル河に飛び込んだという証言が相次ぎ、王太子問題を憂えた第二王妃が我が子と共に身を引いた、という説が有力となりました。その後、数ヶ月に渡り下流まで捜索が行われましたが、第二妃も第二王子も見つけることはできませんでした。
 第一王子は御年10歳、王女は御年5歳、第二王子は御年4歳の秋に起きた事件でした。


 そして。
 それから更に、10年の歳月が流れました――――――――――。


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